中学3年間は台北に住んでいた。現地の日本人学校に通い、周りには日本人がたくさん住んでいた。和食料理店や日本の商品を扱うスーパーもあり、外国感の無い生活だった。
唯一、日本と違ったのは学習環境だったと思う。塾が二つしかなかったのだ。一つは難関高校を目指すハイレベルな塾、もう一つが学校の補習レベルの塾だった。僕は後者に通っていた。
その塾はマリオというあだ名の先生(日本人)が塾長を務めていて、1クラス10人くらいの集団授業が行われていた。マリオが英語を教え、もう一人のひげせんと呼ばれる先生が数学を教えていた。国語は日本からの留学生のアルバイト。
受験生になるまでは塾をよくさぼった。宿題もやらず、ひげせんに叱られることが多かった。一方、マリオは絶対に怒らなかった。それどころか授業では自分が悪ガキだったエピソードを披露してくれた。生徒はみんなマリオが好きだったと思う。マリオの授業は当時の僕にとっては面白かった。学生時代の思い出話は面白いし、英語のスラングを教えてくれるのが中2心をくすぐっていた。「son of a bitchのbitchっていうのはな…」と、平気で下ネタも教えてくれた。
確かに、すべてが適切な指導だったとは思わない。実際、学問的に間違った発言も多く、そのせいで後に苦労した点もあった。それでも、僕は英語が好きになった。さぼる原因だった悪友の転校をきっかけに僕は勉強をがんばったんだが、いちばん伸びたのは英語だった。
マリオは生徒を英語好きにするのが上手かった。周りの子はみんな英語が好きだったと思う。正しい知識を教えるより、生徒を英語好きにさせる方がずっと難しい。マリオはそこをいとも簡単にやってのけていた。実際、僕はそのまま英文科に進学した。
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